相続土地国庫帰属法

昨年に引き続き、今年に入ってからも遺産分割協議書の作成について多くの相談が寄せられています。特に最近多いと感じるのは山林などの過疎地域の不動産が相続財産に含まれる案件です。

 そのような、ほとんど資産価値のない不動産については協議が成立していない場合が多く、誰も相続したがらないのです。しかし、相続登記を行わないことは許されなくなっているので、仕方なく相続人全員で共有にしておくことは、将来に問題を先送りにすることになるのでお勧めできません。

 では、どのような解決策があるのか考えてみると、売却してその金額を分割することです。しかし、現実にはそれが難しいから今まで放置されていたわけです。昨年の「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」でも検討されている課題です。そのため、検討課題に挙げられるのが「相続土地国庫帰属制度」なのです。

「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」の全文は表題をクリックして別タブでご確認ください。

この法律の成立を拠り所にして、当事務所が相談者に国庫帰属申請を行うことを助言し、最終的に分割協議が成立したものもあります。かいつまんで言うとその内容は次のような順序です。

  • 国庫帰属申請が可能かどうかの判断
  • 相続人を決定し登記する
  • 国庫帰属法施行後に相続人が帰属申請する

国庫帰属申請が可能かどうかを判断するために、法律の条文を参照するとこのように書いてあります。

 承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない
 建物の存する土地
 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
 土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

令和三年法律第二十五号

国庫帰属申請が可能かどうかの判断

これだけ「できない」理由が羅列されていますので、実際に現地調査を行ったうえで判断する必要があります。
 例えば、条文の二にあるような「担保権または使用及び収益を目的とする権利」があるかどうかは、登記簿を調べるだけでは不十分です。そのような権利は登記されているはずですが、それは第三者に対抗するためであって、当事者は登記のあるなしにかかわらずその権利に拘束されます。
 実際に私が関与した案件でも道路が設置してあり通行地役権が認められました。相続人は第三者ではありませんので「登記してないから通行は認められない」と主張することはできません。

 現地調査を行い、誰が相続するのか決め(あるいは決めずに法定相続割合通りに)、遺産分割協議書を作成し。相続関係説明図を作成の上相続登記を行います。

 なお、法定相続通りであれば、その不動産についての協議書作成はせずに登記申請を行うことは可能ですが、それはお勧めできません。当事者間で「法定相続通りに相続する」ことで協議が整ったことを書面で残しておくことが必要だからです。

 当事務所にご相談される場合は「お問い合わせ」ページを参照の上ご連絡ください。

カテゴリー: 遺言・相続・遺産分割 | コメントする

表題部所有者不明土地

行政書士が遺産分割協議書作成業務で影響を受けている「所有者不明土地関連法」の成立(令和3年4月21日成立、同月28日公布)より少し前、令和元年5月17日に成立し24日に公布された「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」というものがあります。

 前者が相続登記の義務化などを柱として、所有者がわからないものを何とかしようとするものであるのに対し、後者は名称の「表題部・・」が表すように、そもそも登記が不完全であるものを何とかしようというもので少し次元が違うものです。

 そこで、現在の不動産登記簿の成立の歴史から表題部というものを詳しく説明をしたいところですが、それは別の機会にして、簡単に言えば「旧土地台帳制度化における所有者欄(これが表題部所有者)の氏名・住所の変則的な記載が、昭和35年以降の土地台帳と不動産登記簿との一元化作業後も生き継がれたこと」による不完全が発生したもので、相続登記が行われるということ以前の日本の不動産登記が抱えている問題の一部ということになります。

 この問題の解決のために法律の制定以来各法務局が取り組んでいますが、福岡法務局で重点取り組み地域を令和元年から主に朝倉市地域(那珂川市、大牟田市、大木町、川崎町、筑紫野市)を選定して取り組み、令和4年に入り10か所ほどの土地の表題部所有者の登記を行いました。そのうちの一つが下の画像にあるものです(個人名は薄く消しています)
 このように、地目が墓地であることが代表的な例となります。

 実は、この表題部所有者は所有権の登記名義人ではありません。登記簿に所有者が二種類あるというのは、ほとんどの方は意識もしていませんし知りもしません。日本の不動産登記には公示力はあっても公信力は無いということも全く知られていないということは問題ですが、それはまた別の機会に少しご説明したいと思います。

カテゴリー: 遺言・相続・遺産分割 | コメントする

除票の保存期間の延長

昨日(令和4年1月23日)に、戸籍の附票の記載事項について変更が実施されたことについてお伝えしましたが、実はそれだけではなく、保存期間が大きく延長されていることが大きな意味があります。

「デジタル手続法」及び「住民基本台帳法施行令」のが令和元年に改正されたことにより現在は5年間しか保存されていない戸籍の附票の除票(ご本人が亡くなったため消されたもの)が、150年間保存されることになっているのです。

これは、行政書士が過去の相続について遺産分割協議書の作成を行う場合にも非常に意味があります。現在は実際に不動産の登記簿に記載されている名義人と戸籍(の除票)に記載されている人物の住所が違う場合に、住民票の除票や戸籍の附票の除票などで同一人物であることを証明しようとするのですが、あまりに相続の発生が古すぎる場合には、そのやりかたが不可能になってしまうことが往々にして生じることがあります。その時でもなんとか他の方法を探るわけですが、今回の改正で除票が証明の手段として有効に活用され続けることになったわけです。

 昨日お伝えした改正住民基本台帳法の一部施行による記載事項の変更は、この延長による個人情報への影響に配慮が働いているものと考えることができます。

カテゴリー: 遺言・相続・遺産分割 | コメントする

改正住民基本台帳法の一部施行

去る令和4年1月11日に改正住民基本台帳法が施行されました。概要は以下の通りです。
この改正に関して既に令和元年に施行されたものもありますし、令和6年に施行されるものもありますが、今回の改正施行はこの部分です。
戸籍の附票の記載事項)
一 戸籍の表示
二 氏名
三 住所
四 住所を定めた年月日
五 出生の年月日(新設)
六 男女の別(新設)

 さらに「戸籍の附票の写しで第十七条第二号から第六号までに掲げる事項のみが表示されたものが必要である旨の申出」があれば交付するとの規定もあります。つまり一号「戸籍の表示」は基本的には載らないことになります。

 このことについては、証明請求者は本籍がわかっているからこそ附票が請求できるわけですから、特に問題があるようにも思われないかもしれませんが、附票の用途によっては影響があります。

 例えば、相続のための遺産分割協議書を作る場合、被相続人と相続人の関係を証明するために現在の戸籍や過去の戸籍を揃えますね。それで協議関係者にとっては十分なのですが、その協議書を使って不動産の相続登記をしようとすると、登記所に対して被相続人と不動産の登記名義人が同一人物であることを証明しなくていはいけません。登記所は同姓同名である可能性に不安を抱きますから。
 しかし、不動産登記簿には住所しか掲載されていません。戸籍には現住所は載っていませんから、本籍が掲載された住民票か戸籍の附票でそれを証明することになります。ここに問題が生じるわけです。

 今までは住民票には戸籍は「載せてください」と言わないと載りませんが、附票には当然のように本籍は記載されていました。戸籍の附票ですからね。しかし、これからは特に記載を要求しないと載りませんので、場合によっては役に立たない証明書をとってしまうことになります。

この件につきまして、早速福岡市のサイトに様式が掲載されましたのでご覧ください。

ここからは、一般の方には関係がないのですが、私共専門職(弁護士や司法書士などの職業)にとっては面倒なことになったわけです。それは今までの職務上請求書の様式には「附票に本籍を載せてくれ」という項目がありません。従って新様式の職務上請求書を使う必要がありますが、それまでは別に「別紙様式」というものを添付して証明書を請求することになりますので、ひと手間増えることになりました。

カテゴリー: 遺言・相続・遺産分割 | コメントする

安永事務所サイトを刷新しました

2020年1月より、安永事務所のサイトをリニューアルしました。より一層皆様の日常の法律問題の解決にお役に立てるよう情報提供をしていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

カテゴリー: 告知 | コメントする

所有者不明土地関連法の施行期日

所有者不明土地の発生予防のための法改正として「相続登記の申請義務化」の施行日が令和6年4月1日に決定しました。

カテゴリー: 遺言・相続・遺産分割 | コメントする