遺言書の方式
遺言書には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言の二つの方式があります。なぜ民法の方式で遺言書を書かないと駄目なのでしょうか。
そもそも、「自分の財産をどう処分しようと、私の勝手でしょう。」と考えるのがもっともです。例えば、私が土地を持っているとして、それを他人(親族だろうとそうでなかろうと)に譲ることを考えたとき、私が「この土地譲るよ」「ありがとう、じゃ今日から使いますね」「どうぞどうぞ」で譲ることができます。ちゃんとした大人が行ったことなら、これは民法も認めている、有効な取引です。
ところが、実際には高額な土地のことですから、後々のことを考えたり、欲しいと思っていたのに譲ってもらえなかった人から「あなたがもらったなんて疑わしい、証拠を見せろ!」なんてことになりますから、きちんと売買契約を書面にしたり、不動産登記をしたり、いろいろやります。それが出来ることを確認しないと、不動産の代金も払いませんよね。
ここで、相続の場合を考えると、既に不動産を持っている「私」は亡くなっているのですから、なおさらです。もし、口頭で遺言したとしても、「確かに亡くなった時には私に譲ると遺言してくれたんですよ」は通りませんよね。そのために、遺言書(遺言を書き留めた文書)を作成するわけですが、疑問を持つ人たちが出てくることを想定する必要がありますし、不動産登記も「登記義務者(被相続人)」無しで「登記権利者(相続人、あるいは受贈者)」の言い分だけで登記申請を受け付けなければいけない登記所(法務局)も疑わしいものは受け付けたくありません。
そこで、そういう疑問が生じないように民法の第七章第一節の総則(遺言の方式)第九百六十条に「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と規定したわけです。
遺言の普通の方式
民法上の遺言書は、大きく分類すると、「自筆で作成する」か「公証役場で公正証書として作成する」の二つがあり、その他の方式について遺言書を作成しようとする人が特に考慮する必要はありません。
遺言の方式には「普通の方式」と「特別の方式」があって、特別の方式は民法「第二節」「遺言の方式」「第二款」の「特別の方式」にある第九百七十六条(死亡の危急に迫った者の遺言)、第九百七十七条(伝染病隔離者の遺言)、第九百七十八条(在船者の遺言)、第九百七十九条(船舶遭難者の遺言)の4方式のことで、方式名を見るだけでも私たちが検討する意味が無いことがわかります。
そこで普通の方式を見てみると、民法「第二節」「遺言の方式」「第一款」の「普通の方式」第九百六十七条には(普通の方式による遺言の種類)として「遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。」とあります。
つまり条文上も特別の方式は考えなくても良いと書いてありますが、遺言の方式は①自筆証書、②公正証書、③秘密証書の三つあると書いてあるんですね。ここで、私が検討すべき二つと書いているのは①と②のことです。では、③秘密証書はどうして検討しないのでしょうか。
それは、遺言の内容を秘密にしたいという特別の事情があれば、説明することはあります。その特別の事情がある特別の人へ説明すれば足るものだから、ある意味では特別の方式だからです。
民法(明治二十九年法律第八十九号)第五編(相続)第七章(遺言)第四節(遺言の執行)の第千四条(遺言書の検認)に「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。」とあります。
このように、遺言書には家庭裁判所の検認が必須となっていて、そうしないと遺言書は効力を有さないことになります。実際に、検認していない遺言書を使って相続登記をしようとしても登記所(法務局)は受け付けません。相続人や受贈者にとって負担になることも考えられます。
ところが、同条第二項にはつぎの規定があります。
「前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。」
つまり、公正証書で作成した遺言書は、相続人や受贈者に負担をかけずに有効に執行されることが期待されるのです。
遺言書保管制度の改正
令和2年に始まった法務局における自筆証書保管制度が昨年5月に下記の様な点が改正されました。
①遺言者の住所などの証明書類の作成日が3か月以上経過していた場合には、保管を受け付けられない規定の廃止。
②受遺者が法人格の無い社団・財団である場合も、遺言書情報証明書の取得ができるようになった。
③その他、遺言書情報証明書の交付請求が少し簡略化されたり、遺言書保管所の管轄が緩和されて便利になった。