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「コスモス成年後見サポートセンター」の公益認定
当安永事務所の業務の一つに成年後見があります。この業務は隣接士業では弁護士と司法書士の業務ということになっていましたが、近年は少し状況が変わっています。その表れとして、私も加入している団体「一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター」が「公益法人コスモス成年後見サポートセンター」に名称変更になったことが挙げられます。
一般社団法人と名乗っていた法人が公益法人となるのは、公益認定されたことを示しています。登記上は単なる名称変更なのですが、実態はそんなものではなく、数多くの厳しい基準をクリアして認定されたのです。
公益認定は、当安永事務所の業務としても取り組んでいますが、なかなかハードルの高いものです。一般社団法人設立は、規定通りの申請を行えば必ず設立登記できますが、公益認定はもっと様々な点で「判断基準」をクリアする必要があり、ここでその基準を全ては書ききれない程です。
しかし、当事務所も法人設立を業務の一つとしていますので、そもそも「法人とは」何かを少し書いて置くことにします。
民法制定時に規定された公益法人と営利法人
ここで私が触れようとする「法人」は、いわゆる非営利組織のことですが、そもそも民法が最初に制定されたときの法人の規定は、第33条に「法人は本法その他の法律の規定に依るにあらざれば成立することを得ず」として「法人法定主義」を採用しました。そして、第34条に「公益法人」35条に「営利法人」が規定されています(画像を参照)。
これ、よく考えたら変ですよね。営利法人はわかるとして、公益法人はその他として規定してあるということは「非営利」法人(のみ)である、つまり営利法人は公益法人にはなれないということになったわけです。この時代がずっと続きます。
こういう規定を定めた民法の成り立ちもなかなか興味深いものがあって、画像を載せた条文の最初にある「明治29年」、に全部が成立したわけではなく、その2年後の「明治31年」に親族相続法が成立してやっと全部が出来上がったんです(施行は明治31年同時)。実はこの時に成立した新民法に先行した旧民法もあって、旧民法はとうとう施行されることはありませんでした。
新民法が成立したのが明治維新から30年経ってからというのを、早いとみるか遅いとみるか様々な見方があるでしょうけど、極東の島国が急激に西欧の世界に同調していった一つの表れでしょう。この新民法で規定された公益法人の概念は長く停滞していくことになりました。
現民法の公益法人と営利法人
法人の成立に関しての民法の規定が、現在どうなっているのかを下の画像で見ていただけるように、改正前の民法では第33条から第35条で規定していた法人の成立が、第33条第1項と第2項のみになっています。 これは、改正前民法の第34条にあった公益法人は「主務官庁の許可を得て」設立するという部分がなくなっていることによります。
つまり、公益法人も法律の規定に合えば設立できるという営利法人の規定に統合されたわけです。
公益法人制度改革について
会社法の公布
さて、公益法人の設立について規定した法に先立つこと一年前に会社法(平成十七年法律第八十六号)が公布されています。今から15年ほど前に法人(営利も非営利も)に関する法律の大改訂が始まったのです。
公益法人制度改革関連三法などの制定
まず、平成18年に一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号)、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十八年法律第五十号)のことを「公益法人制度改革関連三法」、略して三法なんて言います。
そして、これに関連してその翌年平成19年に一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行令(平成十九年政令第三十八号)、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則(平成十九年法務省令第二十八号)、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律施行令(平成十九年政令第二百七十七号)、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律施行規則(平成十九年内閣府令第六十九号)など、三法の施行令、施行規則が制定されていきます。
全部揃ったところで、平成20年にこれらの新公益法人制度が施行されたわけです。
司法書士のリーガルサポート
「一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター」は、これに遅れること2年、平成20年に全国組織の一般社団法人として設立されました。
ところで、隣接士業である司法書士は既に平成11年に「一般社団法人リーガルサポート」を設立していますので、10年先行しています。これは現在の成年後見制度が成立する前ですので、そもそもは禁治産者・準禁治産者のサポートをするために設立されたということがわかります。
そしてリーガルサポートは平成23年には公益認定を受けています。これも、コスモス成年後見サポートセンターが公益認定を受けた令和5年より12年ほど早い先輩団体です。
公益とは
ところで、公益という言葉を何の注釈もなく使ってしまいました。勿論、この話題を興味を持って見る方はイメージは出来ているとは思いますが、ここで少し触れておきたいと思います。
有斐閣の「法律用語辞典」の「公益」の項には「公共の利益、広く社会一般の利益をいう」とあります。この用語は民法だけではなく刑法や地方自治法などでも使用例の多いものです。それぞれ法的には厳密に考えるべきでしょうが、一言で言ってしまえば、個人的利益を追求するのではなく皆の利益を考えることとです。
ですから、民法のできあがりのときから営利を追求する会社と対極にあるイメージで非営利法人、即公益法人だと規定されていたわけで、だからこそ民間人ではなく主務官庁から許可を得たものだけが設立できるという規定が存続してきたわけです。
しかし、第二次世界大戦後の世界は、ベルリンの壁の崩壊後の非政府組織の活躍などを契機として、大きく動き出しました。そこで、日本も英国の「チャリティー委員会」を念頭に民法大改革の中に組み込まれていったのが、今回説明している「公益認定」の仕組みなのです。
旧公益法人から新公益法人へ
公益三法が施行された平成20年(2008年)には旧公益法人が新公益法人に移行することになりました。しかし、旧法で許可された旧公益法人が、そのまま新法で認可されるということにはなりませんでした。
移行のために内閣府に公益認定当委員会が設置され、そこで旧公益法人が新公益三法に合致するかどうかチェックしたのです。当時旧法人は約2万5,000法人あったと言われていますが、そのうち約4,000法人が内閣府に申請してチェックを受けたと言われています。六分の一程度しか新制度に合致しなかったということになります。
それにしても、短期間で4,000法人を、その基準も明らかにしながらチェックしていった委員会は大変な作業だったでしょう。その時に作成して用いた基準が既にお知らせした認定法施行令、施行規則となっていったわけです。
加えて、ガイドライン、チェックポイント、FAQ、定款ガイドラインなど、また会計基準、会計基準運用指針などもこの委員会が関与していきます。
余談ですが、このように法律は国会で決まることになっていますが、実質的には行政の中でその規則が決まり、また司法の判例でさらに肉付けされて法律が完成していくわけです。
他の法律にはどんなものがあるのでしょう
民法第33条には公益法人は「この法律その他の法律の定めるところによる。」とあります。その「他の法律」とはどんなものがあるのでしょう。
旧民法の第34条(現民法第33条の2)にいう所の「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人」のうち、「祭祀、宗教」は宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)、「慈善」は社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)、「学術、技芸」は私立学校法(昭和二十四年法律第二百七十号)、「その他」は医療法(昭和二十三年法律第二百五号)・更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)・特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)など、さまざまな立法が行われました。
最後に挙げた特定非営利活動促進法に定める法人は通常「NPO法人」と呼ばれ、実は私が開業して最初に持ち込まれた案件がこの法人に関する問題でした
特定公益増進法人とは
ここで、ちょっと「特定公益増進法人」について触れておきます。これは何か特定の公益法人格のことあらわした用語ではなく、一言でいえば、寄付金控除が受けられる法人のことです。
そもそも、昭和36年に「試験研究法人等」と言われていたもので、特定の学校法人に加え、特に認定された法人のことでした。そこから色々変更されて今に至りますが、その認定は主務官庁と大蔵省(財務省)が協議して決めるという、なかなかわかりにくいものです。
閣議決定三項目
公益法人制度改革は平成12年の行政改革大綱として、次の三項目が閣議決定されたことで実現に大きく踏み出しました。
- 国から公益法人が委託等、推薦等を受けて行っている検査・認定・資格付与等の事務・事業について、厳しく見直すこと
- 国から公益法人に対して交付されている補助金・委託金等、行政の関与の在り方について、厳しい見直しを行うこと
- 平成13年度末目途に実施計画を策定し、平成17年度末までのできる限り早い時期に実行すること
これで、公益法人が主務官庁の許可によって成立するというありかたが、もっと基準を公に明らかにする方向に大きく舵を切ることになり、その時期も定められたわけです。
この閣議決定は、当時の「行政改革」の機運の中で行われたのですが、要因としてKSD事件という汚職事件が契機になったとも言われています。つまり、ある財団法人の天下りの理事長が政治家を使って主務官庁を有利に動かそうとしたもので、世間の目が厳しく公益法人のありかたに注がれた事件でした。
旧公益法人制度では、何をどうすれば許可が得られるのか判然としませんでした。それも主務官庁違うわけですから、同じ基準かどうかもわかりませんでした。だからこそ、ここで政治家を利用して主務官庁に圧力をかけようという考え方も出てきて汚職事件まで発展してしまったのです。
そのため、法人設立と公益認定を切り離し、公益認定の基準を明らかにすることが公益法人制度改革の眼目だったわけです。
新公益法人制度基準の概略
単純な基準ではありませが、私が業務のために調べたことをおさらいする意味で、概略を書いて置きます。
公益事業の定義
三法のうち認定法の第二条(公益法人の定義を記載)の別表に公益事業の定義が書かれていますが、以前の民法に書かれていた「学術、技芸、慈善、祭祀し、宗教その他の公益を目的とする法人」よりかなり具体的です。別表の二十三に「その他」みたいな項目もありますが、ちゃんと「政令で定め」て明らかにすることになっています。
別表(第二条関係)
- 一 学術及び科学技術の振興を目的とする事業
- 二 文化及び芸術の振興を目的とする事業
- 三 障害者若しくは生活困窮者又は事故、災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業
- 四 高齢者の福祉の増進を目的とする事業
- 五 勤労意欲のある者に対する就労の支援を目的とする事業
- 六 公衆衛生の向上を目的とする事業
- 七 児童又は青少年の健全な育成を目的とする事業
- 八 勤労者の福祉の向上を目的とする事業
- 九 教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵かん養することを目的とする事業
- 十 犯罪の防止又は治安の維持を目的とする事業
- 十一 事故又は災害の防止を目的とする事業
- 十二 人種、性別その他の事由による不当な差別又は偏見の防止及び根絶を目的とする事業
- 十三 思想及び良心の自由、信教の自由又は表現の自由の尊重又は擁護を目的とする事業
- 十四 男女共同参画社会の形成その他のより良い社会の形成の推進を目的とする事業
- 十五 国際相互理解の促進及び開発途上にある海外の地域に対する経済協力を目的とする事業
- 十六 地球環境の保全又は自然環境の保護及び整備を目的とする事業
- 十七 国土の利用、整備又は保全を目的とする事業
- 十八 国政の健全な運営の確保に資することを目的とする事業
- 十九 地域社会の健全な発展を目的とする事業
- 二十 公正かつ自由な経済活動の機会の確保及び促進並びにその活性化による国民生活の安定向上を目的とする事業
- 二十一 国民生活に不可欠な物資、エネルギー等の安定供給の確保を目的とする事業
- 二十二 一般消費者の利益の擁護又は増進を目的とする事業
- 二十三 前各号に掲げるもののほか、公益に関する事業として政令で定めるもの
認定基準
認定基準は「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号)」(以下:認定法)の第二章第一節第五条(公益認定の基準)に記載されています。ちょっとくどくなりますが記載します。
これは規定の一部にすぎませんが、これだけの基準に対応する能力があるんだから、公益団体は信頼できるな、と思っていただけるでしょう。(公益団体にとっては、関係者の信頼を勝ち取るということ以外にも目的がありますが、また次の機会にでも書きます)
さて、上記第五条と「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)(以下:ガイドライン)を併せて読んでいきます。ガイドラインは認定法の施行にあわせて、内閣府公益認定等委員会が策定し公表したものです。
認定法第五条の(第一項)第一号
公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること。
ガイドライン
(認定法第5条第1号の「主たる目的とするものであること」とは、法人が、認定法第2条第4号で定義される「公益目的事業」の実施を主たる目的とするということである。定款で定める法人の事業又は目的に根拠がない事業は、公益目的事業として認められないことがありうる。申請時には、認定法第5条第8号の公益目的事業比率の見込みが50%以上であれば本号は満たすものと判断する。)
第二号
二 公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること。
ガイドライン
《経理的基礎》
認定法第5条第2号の「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎」とは、①財政基盤の明確化、②経理処理、財産管理の適正性、③情報開示の適正性とする。
(1) 財政基盤の明確化
① 貸借対照表、収支(損益)予算書等より、財務状態を確認し、法人の事業規模を踏まえ、必要に応じて今後の財務の見通しについて追加的に説明を求める。
② 寄附金収入については、寄付金の大口拠出上位5者の見込み、会費収入については積算の根拠、借入れの予定があればその計画について、情報を求め、法人の規模に見合った事業実施のための収入が適切に見積もられているか確認する。
(2) 経理処理・財産管理の適正性
財産の管理、運用について法人の役員が適切に関与すること、開示情報や行政庁への提出資料の基礎として十分な会計帳簿を備え付けること(注1)、不適正な経理を行わないこと(注2)とする。
(注1)法人が備え付ける会計帳簿は、事業の実態に応じ法人により異なるが、例えば仕訳帳、総勘定元帳、予算の管理に必要な帳簿、償却資産その他の資産台帳、得意先元帳、仕入先元帳等の補助簿が考えられる。区分経理が求められる場合には、帳簿から経理区分が判別できるようにする。
(注2)法人の支出に使途不明金があるもの、会計帳簿に虚偽の記載があるものその他の不適正な経理とする。
(3) 情報開示の適正性
① 外部監査を受けているか、そうでない場合には費用及び損失の額又は収益の額が1億円以上の法人については監事(2人以上の場合は少なくとも1名、以下同じ)を公認会計士又は税理士が務めること、当該額が1億円未満の法人については営利又は非営利法人の経理事務を例えば5年以上従事した者等が監事を務めることが確認されれば、適切に情報開示が行われるものとして取り扱う。
② 上記①は、これを法人に義務付けるものではなく、このような体制にない法人においては、公認会計士、税理士又はその他の経理事務の精通者が法人の情報開示にどのように関与するのかの説明をもとに、個別に判断する。
《技術的能力》
認定法第5条第2号の「公益目的事業を行うのに必要な」「技術的能力」とは、事業実施のための技術、専門的人材や設備などの能力の確保とする。
申請時には、例えば検査検定事業においては、人員や検査機器の能力の水準の設定とその確保が「公益目的事業のチェックポイント」に掲げられていることから、検査検定事業を行う法人は、本号の技術的能力との関係において、当該チェックポイントを満たすことが必要となる。法人の中核的事業においてチェックポイントで掲げられた技術的能力が欠如していると判断される場合には、公益法人として不認定となることもありうる。
また、事業を行うに当たり法令上許認可等を必要とする場合においては、認定法第7条第2項第3号の「書類」の提出をもって技術的能力を確認する。
事業に必要な技術的能力は、法人自らが全てを保有していることを求めているものではない。しかし、実態として自らが当該事業を実施しているとは評価されない程度にまで事業に必要な資源を外部に依存しているときには、技術的能力を備えていないものと判断される場合もありうる。
終わりに
見ていただいように、ガイドラインの記載がとても長いものです。従って、ガイドラインを読まないと認定法は理解できないことがよくわかります。
そのため、私が公益認定を受けようとする団体の理事や関係者との打合せの会合を持つときには、最初に認定三法に加え、このガイドラインを配って説明するようにしています。